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たった一言、たったの五文字。
でも、その言葉だけ、言えなくて。
『あいしてる』
肌を重ねた後の、気だるさ。
シャワーを浴び終えてベッドサイドに戻ってきた白雪は、
すぐにはシーツの中に潜り込まず、
ひとまず、パイポを口に咥えた。
馴染みの味が鼻を抜け、少しだけ気持ちが軽くなる。
「ねえ。」
流した視線の先、ベッドの中、
まるで叱られた子供のように身を丸めているコイビト。
声をかけても、返事はない。
寝ているわけじゃないこと、ばれているのは百も承知だろうに。
くすり、と苦笑して、もう一度声をかける。
ただし、今度は投げかける言葉に、その名も乗せて。
「ねえ、猿野君。」
「…なんだよ。」
背中を向けたまま、不機嫌そうな声を返すコイビト―猿野は、
やっぱりまだ、小さく体を丸めたまま。
何かに怯えているような、何かから己を守るようなその姿に、
ベッドに潜り込んで抱き込んでやりたい衝動が湧き上がってくるが、
意外に冷静で理性的な自分は、すんでのところで我に返る。
そんなことをしても、無駄だと。
いや、寧ろ、一層彼を傷つけるだけだと。
だって、彼が身を守ろうとしている、その対象は。
紛れもなく、この自分。
コイビト、なのに。
コイビト、だけど。
「僕のこと、愛してる?」
ぴくり、と震えた猿野の肩。
けれど、ただそれだけ。
答えは、ない。
コイビト、だけど。
今までに、言葉で「愛してる」と言われたことは、一度もない。
「ねえ。」
首を傾げて問いかけながら、本当は分かっている。
どれだけ尋ねようとも、その言葉を猿野が口にしないことくらい。
分かっていて同じ事を繰り返すのは、不毛だと知っているけれど。
それでも。
シーツに包まった体が、身じろいだ。
やがてゆるゆると、何処か躊躇うようにベッドから這い出してきた猿野は、
ゆっくりと白雪の前まで歩み寄ると、その唇からパイポを奪い去って。
おもむろに、キスをした。
「言わねーよ。」
軽く重ねただけの唇が離れ、途端に告げられる言葉。
「絶対に、言わない。」
まっすぐに見つめてくる鳶色の瞳には、確固たる決意。
その想いの源泉を、白雪は知らない。
いや、知ろうとしていない。
知ろうとすれば、猿野の奥底に踏み込まなければならない。
だから、踏み込まない。
踏み込まないのは、大人の狡さ、大人の弱さ。
踏み込んで、終わりにしたくない。
踏み込んで、傷つけたくない。
だから、踏み込まない、踏み込めない。
でも、ちょっとだけ、踏み込みたくなるのは。
「なんでそんな、泣きそうな顔するのー?」
強い眼差しの奥に揺れる涙に、気づいているから。
「ごめんね。」
苦笑いしながら、謝罪しながら、癖のある髪を撫でてやる。
「ごめんね。」
こんな顔、させたいわけじゃないのに。
困らせたいわけじゃ、ないのに。
だって、知っているから。
たとえ言葉には出さなくても、行動で示してくれていること。
『心から、愛してる』って。
キスも、ハグも、セックスも、みんなみんな、心からの『愛してる』だって。
それでも言葉が欲しくなるのは、ただ、弱虫な自分のエゴ。
「もう、言わないから。ごめんね。」
今にも泣き出してしまいそうな顔に微笑みかけて、
一緒にベッドに入ろうと促す。
素直に従うその姿がいじらしくて、同時に何故か悲しかった。
二人並んで横になった途端、至近距離で囁かれる言葉は。
「謝んないでよ。」
伏目がちに、ぽつりと。
ああ、そういえば、前もこんなことを言われたっけ。
「うん、ごめん。」
口をついて出た言葉に。
「また謝った。」
「あはは、そうだね。」
悪びれずに微笑むと、もういい、と背中を向けられてしまった。
それから、ぶっきらぼうに投げかけられる、「おやすみ」。
「うん、おやすみ。」
言葉通りに目を閉じると、体を動かす気配がして。
そして、瞼の上に一つ、優しいキスが落とされた。
でもやっぱり、謝らせて。
「いっぱい傷つけて、ごめんね。」
◆
眠った、のだろうか。
ちらり、と背中越しにコイビトを顧みて、
猿野は小さく息を吐いた。
耳を澄ますと、微かに呼気が耳に届くけれど、
それとて、眠った証拠にはならない。
この人にとって、狸寝入りなど、朝飯前だろうから。
それでも、少し疑いながらも、ゆっくりと体の向きを換え、
瞼を閉じた愛しい人と向かい合う。
そっと、長い髪に触れる。
この感触が、猿野はとても好きだった。
こうして髪の手触りを楽しんでいるだけで、
とてもとても、幸せな気持ちになれた。
そして、同時に思った。
この人を、この感触を、独り占めにできればいいのに、と。
本当に本当に、独り占めにできればいいのに、と。
過去にこの愛しい人の心を占めていた、「あの人」の影さえも、
消し去ってしまえればいいのに、と。
知っている、
今もまだ、白雪の胸の中には、「あの人」―大神が、住んでいることくらい。
あれは、初めてセックスしたときのこと。
未知の体験への緊張と背徳感と、
同時に愛する人と一つになれたことの喜びの中、
絶頂の後の余韻に浸っていた猿野の視界の端に映ったのは、
何処か遠くを見つめる、白雪の横顔。
それは本当に一瞬のことで、すぐに微笑んでこちらに視線を向け、
そして優しく髪を撫でてくれたのだけれど。
それでも、分かってしまった。
心から愛しているからこそ、分かってしまった。
白雪の視線の先にあったのは、最早この世に存在しない人の影。
大神照の、影。
昔、何かのドラマで言っていた。
愛する人の想いを、一生繋ぎとめておくために必要なのは、
その人に無上の愛を注ぐことでも、その人の言いなりになることでもない。
愛されているうちに、消えること。
そう、恋人の心を繋ぎとめるための、最上の方法は、「死」。
無論、大神がそんな想いを抱いて死んだわけではないことを、
猿野とて分かっている。
けれど、結果的には、死によって大神の存在は、白雪の中で永遠の命を得た。
たとえ、どれだけ心から自分のことを愛してくれたとしても、
白雪の中には、常に大神の影が存在するのだ。
悔しくないと言ったら、ウソだ。
悲しくないと言ったら、ウソだ。
でも、それ以上に猿野の胸を占める思いは。
上手く、言葉にできないけれど、最も近いのは、きっと「罪悪感」。
それは、逝ってしまった「あの人」に対するものであり、
「あの人」への純粋な想いを抱えるコイビトに対してであり、
もしかしたら、自分自身に対するものかもしれない。
だから。
無邪気に「愛してる」なんて、言えない。
本当は、心の底から「愛してる」のに。
誰よりも何よりも、「愛してる」けど。
「謝んのは、俺の方だって。」
小さく小さく呟いた声は、すぐに気だるげな空気に滲んで消える。
「ごめん。」
謝罪の言葉は。
「ごめん。」
苦く、しょっぱかった。
完全に眠りに落ちたコイビトの耳元に、唇を寄せて。
意識のない今ならば、きっと許されるはずの言葉は、
しかし、結局、声になることなく、消えた。
「愛してる、心から、愛してる。」
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ブログで「切ない雪猿が欲しい」とぼやいていたら大崎要さんが書いてくださった!
自慢したいので転載させていただきました。
いい話だからってお持ち帰りは駄目ですよハァハァ!!
あーもうボク死んでもいいよ!
でももっと雪猿読みたいから死んでも死にきれない!!←?
はぁあああああうーーーーーーーーーーん!切な雪猿ぅうううん!!
もう体の関係があるなんて!全く!けしからん!もっとやれ!!
猿野=男前+健気=包容力受・・・・大好物です!!!
そして精神的に弱い雪たんが大好きです。
メンタルは猿雪、フィジカルは雪猿というわたしのツボが・・!
整体師なみの正確さで押されている!!なんという!なんというMOE!!
猿がほんっとに・・ほんっとに萌えすぎる!!
ホントなにこのツンデレ切なかわいい猿・・!!だきしめたーい!ゴロゴロゴロ!!!
ハァハァ・・・・要さん・・恐ろしい子・・!!
感想がアホの塊で申し訳ないんですが、正直読みながら泣いてた・・・・
今読み返して眼球潤ってきた・・!←何してはるん
いやっ・・もうっ・・ホントッホンットによぉ・・・・!!!!
(照←)雪猿ってさ・・・・!ほんとに切ないよ・・
私にも文才があればこの切なさをぶつけられるのに・・!チックソォイ!!
雪たんが猿を好きになるのは予定調和ってか自然の理なのですが。←妄想スイッチオン
キッカケは「照に似てる」からだけど、好きになるのは「猿野天国」なんだと思う。
んー、わかりにくいな・・・・
多分、そのキッカケがないと好きにはならなかったけど、
中身が「猿野天国」だから、雪たんは惹かれるんじゃないかなと・・ね・・・・
似てるから好きになったと思ったけど、そんなの関係なかった、
猿野くんが猿野くんだから好きになったよ、的な雪たんであってほしい。
でもそのキッカケがないと、雪たんは猿を意識しないから
どっちも外せない要素だと信じてる。
エキサイトしたら眠くなっちゃった・・おやすみなさいブー!